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札幌高等裁判所 昭和31年(ラ)46号 決定 1957年2月22日

抗告人 吉田吉太郎

主文

原決定を取り消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

本件記録によると、本件昭和三一年七月一六日午前一〇時の競売期日の公告に、本件建物の公課金一五、二九〇円である旨記載されたこと、右は、昭和二九年八月二三日の本件競売申立に際し、債権者が提出した北海道札幌郡琴似町長作成昭和二九年度本件建物の公課証明書の記載金額によつたもので、あらためて競売期日の公告当時の年度の公課金を取り調べることなく、昭和二九年度の公課金を右公告にかかげたものであること明かである。

ところで、競売法第二九条民事訴訟法第六五八条第二号によると、競売期日の公告に公課を記載することを要求しているが、いずれの年度のものを記載すべきかについてはなんら規定していない。そこで、いずれの年度の公課を記載すれば公告の要件を具備することになるかが一応問題となるわけである。思うに、競売期日の公告に公課をかかげることをその要件の一つとしているゆえんのものは、競買申出人をして公告掲記の公課をしん酌して競買価額を定めさせようとするにあるのであるから、公告当時の年度のそれを記載することが、公告の目的にそうものであつて、その要件を充足するものであることは所論指摘のとおりである。しかしながら、公告当時の年度のものを記載しない一事をとらえて、直ちに公告を違法のものということはできない。なんとなれば、たとえ公告にその当時の年度以前の年度の公課を記載しても、前示公告の目的にそうかぎり、その要件を具備するものというべく、ただその目的に反する場合においてのみ公告の要件を欠く違法のものと解するのが相当であるからである。

これを本件についてみるに、札幌市長作成の昭和三一年一二月二八日付回答書によると、本件建物に関する昭和三一年度の公課は、金三、五八〇円であることが認められる。そうだとすると本件競売期日の公告には、事実上の公課金の四倍強にあたる金額を公課金として記載したのであるから、かかる著しく事実と異なる右公告は、公告の目的に反し、結局公告の要件を欠く違法のものといわなくてはならない。それ故違法の本件公告に基づく競落はこれを許すべきではないのにこれを許可した原決定は失当であつて、その取消を免れない。

よつて、その余の抗告理由の判断を省略し、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、競売法第三二条、民事訴訟法第六八二条第三項、第六七四条、第六七二条第四号にしたがい、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 安久津武人 裁判官 立岡安正)

抗告の趣意

原決定を取消す。

本件は札幌地方裁判所に差戻すとの御決定を求める。

一、本件競売期日公告には昭和二十九年度の公課を掲げてある。しかしながら競売期日は昭和三十一年七月十六日でありその公告は六月中になされたものであるから公告当時における年度の公課を掲載すべきことは理の当然というべきであるから結局右公告は公課の記載がないものに帰する。

二、本件の評価額は四十二万五千円である、しかるにこれを金十五万円をもつて競落を許可した決定は不当に債務者の財産権を侵害したものである。

三、仮りに右をもつて不当に債務者の財産権を侵害したものでないとするも鑑定人石川剛三の評価書によれば本件家屋中の「同上付属木造柾葺平屋建便所建坪一坪」は「評価の価値なし」とあるも評価の価値なしとは如何なる意味であろうか、故りに無価値という意味なりとすれば何をもつて無価値というのか理解に苦しむのみならず、かかる場合にはすべからく裁判所は他の鑑定人をして再評価を命ずべきに慢然これを鵜呑みにし、便所は従物であればとて価額に算入せずして競売に付し且つ、競落を許したのは結局不動産の最低競売価額を公告に記載せざりしものに帰するのみならず競売の本質に反し不当に債務者の財産権を侵害したものである。

よつて原決定は取り消さるべきである。

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